石川県の南西端に位置する加賀市は、山代・山中・片山津の三温泉地を擁し、九谷焼や山中漆器に代表される伝統文化が息づく地域です。その一方で、消滅可能性都市に指定されるなど、人口減少という大きな課題に直面しています。
そんな中、加賀市は「国家戦略特区」という強みを活かし、先端技術の導入と人材の育成に乗り出しています。この度、株式会社ワンストップビジネスセンターは、加賀市の起業家支援体制をさらに強化するため、2025年11月よりバーチャルオフィスサービスを開始しました。提携の背景から加賀市が目指す未来、そして両者が目指す「地方から生まれる新しい起業支援」の全容について語り合いました。
山中温泉「こおろぎ橋」
橋立ズワイガニ
山代大田楽
柴山潟
	
加賀市 イノベーション推進部 地域デジタル課
課長 / 加賀市イノベーションセンター センター長 松谷 俊宏 さま
主事 砥綿 一佐 さま
株式会社ワンストップビジネスセンター
取締役社長 生田泰啓
加賀市が挑む「人口半減」の課題と国家戦略特区のポテンシャル
生田(以下、省略)
加賀市の地域的な特徴と、現在市が抱えている最も大きな課題をお教えください。
松谷さまー
加賀市は豊かな自然と歴史的な城下町の文化が残り、山中、山代、片山津の3つの温泉地を擁する観光地です。九谷焼や山中漆器などの伝統工芸、海産物や高級ブドウのルビーロマンといった食の宝庫でもあります。令和6年3月には北陸新幹線の延伸により、加賀温泉駅が開業し、再び賑わいを取り戻しつつあります。
一方で、市が抱える最大の課題は人口減少です。ピーク時8万人ほどいた人口が、2040年には半減するという深刻な予測が立てられています。

この課題に対して、加賀市はどのような戦略で立ち向かっていますか?
松谷さまー
「先端技術の導入」と「人材の育成」の二本柱を軸に、産業の高度化、高付加価値化を推進し、新たな産業の集積を目指しています。
加賀市は国家戦略特区に指定されていることもあり、これまでは難しかった先進的な事業や大胆な規制緩和が可能になっています。先端技術を使いこなす人材を育成し、場所を選ばない新しい働き方に対応できる環境整備が急務です。
その中で、特に起業支援に力を入れている背景を教えてください。
松谷さまー
新しい技術を活用するスタートアップ企業を創出し、そうした企業の集積地となることが目的です。
現代は「場所を選ばずに仕事ができる世の中」になりつつあります。このチャンスを活かし、加賀市を拠点に選んでいただき、温泉に入りながら、豊かな自然を楽しみながら仕事ができる――そんなQOLの高い場所として、全国から事業者を呼び込みたいと考えています。

「バーチャルオフィス」がインキュベーションルームの選択肢を増やす
すでにリアル拠点として「加賀市イノベーションセンター」がある中で、今回当社と連携しようと考えたきっかけは何ですか?
松谷さまー
きっかけは、ワンストップビジネスセンターさんからイノベーションセンターへの入居検討のお声をいただいたことでした。しかし、その事業内容を拝見するうちに、リアルのオフィスとして活用していただくよりも、ワンストップビジネスセンターさんを通じてバーチャルオフィスをイノベーションセンターの新たなサービスとして提供することに大きな可能性を感じました。
最終的に当社との提携を決めたのはどんな点からでしょうか?
松谷さまー
業歴15年以上、全国40店舗以上の運営実績があるバーチャルオフィス業界のパイオニアであるという点です。そして、契約時の審査体制をお伺いして、とても丁寧にやられていることが分かり、信頼できるパートナーだと感じました。
また、ワンストップビジネスセンターさんの1万以上のご利用者に、加賀市を訪れてもらえる可能性も感じたためです。ニセコ町さんと提携して、様々な取り組みをされていることが参考になりました。
バーチャルオフィス導入が解決する、加賀市独自の課題とは?
松谷さまー
2点あります。
1つは、イノベーションセンター内にあるインキュベーションルーム(個室)の満室対策です。おかげさまで入居が進んでいますが、21室しかないため満室になる可能性が浮上しています。バーチャルオフィスがあれば、物理的なオフィスが不要な企業への受け皿を提供できます。
もう1つが、入居要件の課題です。インキュベーションルームは「情報通信業」や「先端技術を使うもの」など、業種要件を設けており、それ以外の事業内容ではお断りするケースがありました。バーチャルオフィスであれば、この業種要件がないため、どのような業態の方でも受け入れられるようになります。

規制緩和と伴走型支援 | 国家戦略特区の強み
集積を期待する事業として、ドローン産業に注目されています。その背景を教えてください。
砥綿さまー
ドローン産業は市場規模の拡大が見込まれていますが、物流、インフラ点検、農業、災害対策など、多岐にわたる分野での活用が期待されています。
加賀市は、山間部から海沿いの集落まで広がる「多極分散型の都市」です。この地理的な特性から、自動運転やドローンによる物流など、地域住民の生活を支える新技術への期待が高まっています。
国家戦略特区だからこその「規制を緩和し、実証実験がしやすい」という優位性を活かして、先進技術の実証・集積の地を目指しています。

国家戦略特区として、具体的にどのような支援を行っていますか?
砥綿さまー
「加賀市近未来技術実証ワンストップセンター」を開設し、自動運転、ドローン、AI・IoTの分野を対象に、円滑な実証事業の実施をワンストップでサポートしています。
また、「加賀市開業ワンストップセンター」では、登記、税務、年金、社会保険等の法人設立及び事業開始時に必要な窓口を集約し、各種手続をオンラインにより実施可能とすることで開業時の負担を軽減しています。
併せて、起業家支援として、インキュベーションルーム入居者を対象にした、コミュニティマネージャーも配置しています。彼らは、入居者と定期的な面談を行い、「事業者が市に何を求めているか」を聞き取り、ファイナンスや補助金等の案内まで、個々の事業者に寄り添ったサポートを提供しています。
今後は、物理的なオフィスを持たないバーチャルオフィスの利用者とインキュベーションルーム入居者との交流なども期待しているところです。
そこまでしてくださるのかと大変驚きました。加賀市在住でなくてもこのサポートは受けられるのでしょうか?
砥綿さまー
はい。加賀市在住でなくても、パーチャルオフィス加賀店をご利用いただくことで、国どこからでも加賀市の先進的な支援体制にアクセスできます。全国の起業家の皆様に、加賀市の「積極的な姿勢」をぜひ知っていただきたいです。

最高の福利厚生は「温泉」。QOLと事業を両立する加賀市の魅力
実際に加賀市で起業・生活をすることの魅力とは何でしょうか?
松谷さまー
地元出身者から見ても、まず温泉に日常的に入れるというのは最大の魅力です。銭湯に行く感覚で名湯を楽しめるのは、最高の福利厚生だと感じています。また、住民は総じて穏やかで真面目な人が多いのも特徴です。
砥綿さまー
私は近年移住してきましたが、人が優しく、子育て支援が手厚いことに驚きました。保育園や学校の給食費の無償化など、行政サービスが充実していて、子育て世代にとって非常に住みやすい環境です。「程よい都会と程よい田舎」のバランスが取れています。
最後に、全国の起業家・フリーランスの方々に向けて、メッセージをお願いします。
松谷さまー
起業の第一歩を踏み出すことは大変ですが、加賀市にはその挑戦を支える環境と、手厚いサポート体制が整っています。
国家戦略特区という強みを活かし、加賀市がサポートを行いながら、事業者と伴走しすることで、規制により行うことが難しい事業でも実行することができます。国家戦略特区だからこそできる起業に、加賀市は応えられます。
ぜひ、ワンストップビジネスセンター加賀店を通じて加賀市と繋がり、新しい未来を一緒に創っていただけることを願っています。

加賀市 イノベーション推進部 デジタル課の皆さま。左から米丸さま、砥綿さま、松谷さま、川端さま
取材を終えて
行政がここまで深く起業家支援にコミットし、地域の未来を共に創ろうとする自治体は全国的にも珍しいです。加賀市のこの取り組みは、地方だからこそ実現できる新しい働き方やビジネスの形を示す挑戦でもあります。ぜひこの機会に加賀市との新しい接点を見つけ、そのポテンシャルと豊かな暮らしを体験してください。
ワンストップビジネスセンターは、都市と地方をつなぐ架け橋として、起業や副業に挑む皆さまをこれからも力強く後押ししてまいります。
